(鏡さま、ごめん!名前が違っていたので、タイトル&レイアウト変更しました)
「なにぃ、ミュラーに恋人ぉ!!」 「しっ。卿は声が大きい」 ミッターマイヤーは周りを見回し、小声で言う。 「一応本人は隠しているつもりなのだからな」 ここはビッテンフェルトの執務室。 いつもは幕僚たちであふれかえっているのだが、今は誰もいない。 人払いをした張本人、ミッターマイヤーがいたずらっ子のようなまなざしで告げたのが ミュラーの信じられないような?噂だったのだ。 いや、信じられないなどといったら本人に失礼になる。 一応ミュラーも妙齢?の男性なのだ。 恋人の一人や二人いてもおかしくない。 しかし・・・。 「おれにまで黙っているとはな」 ビッテンフェルトはおもしろくない。 おれとミュラーは、「黒壁」とか「猪壁」とか言われる名(迷?)コンビではないか。 それは「双璧」に比べたら短いつきあいかもしれんが・・・全く水くさい。 「卿に話したらみなにばれてしまうからではないか?」 ミッターマイヤーが、彼には似合わぬ人の悪い笑顔で言う。 ビッテンフェルトはそういうことを言われては、ますますおもしろくない。 「おれはそれほど口は軽くないぞ」 「いや、軽くなくても声が大きすぎる。 今の声だって、もしかしたらローエングラム元帥閣下にも聞こえたかもしれぬぞ」 「ほう、卿らはローエングラム侯に聞かれてはまずいことでも話していたのか? ミッターマイヤー。ビッテンフェルト」 ・・・・・・その声は。 不吉な予感がして振り向くと、そこにはミッターマイヤーの親友がいる。 その金銀妖瞳にはおもしろそうな色が浮かんでいる。 「・・・いつからそこにいた?」 ミッターマイヤーが苦笑して言う。 ロイエンタールがその笑顔に答えるように笑う。 ・・・・・・この笑いが浮かんだときはろくなことがないのを二人ともよく知っている。 「ビッテンフェルトの雄叫びが聞こえたのでな、何かおもしろいことでもあるのかと思いのぞいてみた。で、ミュラーの恋人とやらはどんな女性だ?」 「知らぬ。おれは見たことがない」 「では卿はどうしてその事実を知った?」 「先週の日曜日、ワーレンが子どもを連れて遊園地に行ったそうだ。そこでミュラーが美しい女性と二人でいちゃいちゃしている場面に遭遇したらしい。二人でお化け屋敷に入っていったそうだ」 「お化け屋敷・・・」 仮にも帝国軍人ともあろう男が、提督と呼ばれる地位にある男が、女の子と二人でお化け屋敷だぁ? ビッテンフェルトは「このお子ちゃまが!」という顔をし、ロイエンタールは「まだまだ修行が足りないな」と言わんばかりの表情をする。 「ミュラーの考えそうなことだ。女の子が怖がって抱きついてくるのを密かに期待していたのかもしれん」 とミッターマイヤーがもっともらしいことを言う。 「ほう、ミッターマイヤー、卿は奥方と遊園地に行くときにそういうよこしまなことを考えているのか?意外だな」 とロイエンタールがつぶやく。 「いや、一般論としてだ。それにおれは、エヴァとはそういうところには行かん」 「ではどんなところに行くのだ?」 「どこかに行く必要などなかろう?どんな場所でもおれはエヴァさえいれば十分楽しい」 「・・・・・・」 目が点になるビッテンフェルト。 「おまえののろけはいいから、で、それから?」 「いや、そのまま、遊園地で楽しい時を過ごして帰ったそうだ」 ・・・・・・健全だ、あまりにも健全すぎるデートだ。 ミッターマイヤーではあるまいに、なぜ健康な成年男子がそのようなデートで満足して帰宅するのだ?と考え込むロイエンタール。 彼が健全な一般男子の基準といえるかどうかはこの際置いておいて・・・。 「・・・つまり、まだまだお子ちゃまなデートだというわけだな。ミュラーらしいではないか」 「しかし、手もつながぬとはな。少々じれったいぞ」 「そうだ、ミッターマイヤーですら、プロポーズ前に手くらいつないでいたというのに」 「卿はおれにけんかを売る気か?ロイエンタール」 ・・・提督たちのうわさ話は、いつのまにか海鷲に場所を移し、延々と続いていた。 「ミュラーを、応援せねばなるまいな」 ミッターマイヤーが真剣な顔で言う。 「聞けば、ミュラーは少尉時代の手痛い失恋からまだ立ち直っていないと言うではないか。これはいいチャンスかもしれぬぞ、ミュラーにとって」 結婚こそが男の本懐、と考えているミッターマイヤーらしい一言だ。 結婚などばかげている、と日頃から信じきっているロイエンタールがミッターマイヤーを遮るように言う。 「結局は他人のことであろう?卿がそこまで心配することはあるまい。ミュラーも子どもではないのだ、自分のことぐらい自分でできよう」 「それは卿の考えであろう?ミュラーの心の傷を考えると・・・」 「人には触れられたくない傷もあろうに」 ・・・一瞬、ミッターマイヤーが動けなくなる。 ロイエンタールにそれを言われては何も言えないのが、彼の幼いころの心の傷を熟知しているミッターマイヤーである。 「・・・ところで、ミュラーはどこのご婦人とつきあっているのだ?」 ビッテンフェルトが発した、その、もっともな問いに、双璧が口ごもる。 「・・・卿は、知っているのではないか?ミッターマイヤー」 「い、いや、知らぬ。卿こそ・・・」 「おれはさっき、卿らから話を聞いたばかりだ。知っているはずがない」 「では、応援するもなにもないではないか」 「・・・そうだな」 3人が笑う。 「まずは情報収集だな」 「それしかあるまい」 「こう言うことは誰がよく知っている?」 「うーん、普段ならミュラーに聞くのだが」 「本人に聞くわけにもいかんだろう?」 「では誰に聞く?」 「ケスラーか?」 「いや、奴はまじめすぎる」 「では誰もおらぬではないか」 「う〜む・・・」 考え込むビッテンフェルト。そこへ、 「何をお話ですか?楽しそうですね」 と、礼儀正しい声。 「ミュラー!」 ミッターマイヤーが素っ頓狂な声を出す。 「あ、いや、この・・・」 「今、卿のことを話していたのだ」 ロイエンタールがいつもの冷静な口調で言う。 「卿は、今、妙齢のご婦人とおつきあいをしているそうだな」 (ロ、ロイエンタール!) どうしてこいつはこうもストレートに聞くのだ?ビッテンフェルトが密かに舌打ちする。 「そんなことを、誰がおっしゃっていたんですか?」 ミュラーはあくまで落ち着いている。 これは違うかな?とミッターマイヤーは思う。 「ワーレンが、先週の日曜日に、卿と美しいご婦人が一緒にお化け屋敷に入って行くのを見たと言っていたぞ」 「ああ、あれですか」 「あれって、お前」 とビッテンフェルト。 「あれは妹ですよ」 「妹ぉ?」 「ええ、妹です」 「卿に妹がいたのか」 ミッターマイヤーが少々がっかりしたように言う。 「なるほど、なら遊園地もうなずけるな」 ロイエンタールも納得したように言う。 「美しい女性だ、とワーレンが言っていたぞ。おれにも紹介しろ」 「ええ、そのうちに」 ミュラーは、いつもの静かな笑顔を見せていた。 (まだ・・・妹のようなものですけれど、もしかしたら、きっと、そのうちに・・・) ナイトハルト・ミュラー。 彼が密かに思いを寄せている女性、セリナにとって、彼の存在は「兄」に毛が生えたようなものにすぎない。しかし。いつかはきっと兄以上の存在になれる、いや、なりたいと思う。 そのときには晴れて彼女を「恋人」と呼んであげよう、そう思っているミュラーであった。 novelへ 鏡さんへ ああ、何という駄文!!セリナとミュラーが友だち以上、恋人未満のころをわたしなりに想像しました。 受け取ってね。名前の間違え、すみませんでした。 あ、セリナというのは、鏡さんのサイトのオリキャラで、ミュラーの恋人です。 鏡さんのサイトで、純情、かつ、不器用なミュラーの恋物語が読めます。 |